再婚の方の遺言1

背景


 この遺言者様は、男性で30年ほど前に奥様を亡くされ、その後20年ほど前に、当時の職場の同僚だった女性と親しくなり、同居生活をされていたのですが、婚姻届けを出さず事実婚の状態でお暮しでした。年齢は80歳代後半で、事実婚の女性は70歳代後半の方でした。
 

 また男性には、亡くなられた奥様との間に2人のお嬢様が居られ、おふたりとも50歳代でそれぞれ独立しておられます。
男性としては、ご自身が年老いてこられ、生い先短いと思っておられ、ご自身亡き後の事実婚の女性の将来を大変ご心配されていました。特に男性自身亡きあとの女性の住む場所のことをとても心配されていました。
 

右図1,20年の事実婚、男性には前婚時の長女と次女あり

 後述の現在おふたりでお住まいのご自宅に、女性の方が男性亡きあとも継続して住み続けられるのか、娘2人からの立ち退きを迫られるのではといったことも心配されていました。右図1のようなご家族関係です。
 

財産としては、おふたりでお住まいのご自宅と、現預金があるといった状況でした。

ポイント


①婚姻届けを出さず事実婚のご夫婦である。
②夫婦(事実婚)の年齢差が10歳以上あり、男性の死後女性の将来が心配。特に自宅に継続して住み続けることができるのか。
③前婚でのお子様が2人おられる。

対応


 まず、お勧めしたことは、もう20年も事実婚を続けられているのであれば、きちんと婚姻届けを役所に提出し、法律上の夫婦になられてはということでした。
 

右図2,事実婚状態での遺留分
右図3,法定婚での遺留分

 日本の民法は法定婚を採用していますから、婚姻届けを役所に提出し戸籍上の夫婦になっていなければ、いかに20数年事実婚を継続されていても、婚姻関係があるとみなされません。 
 

 言い換えれば、こちらの男性と女性は、法律上は全くの他人、従って男性が亡くなったとしても、この女性には相続権はなく、まったくの無権利者ということになってしまいます。

 また、遺言を準備されたとしても、仮に事実婚のままこの女性に全財産を遺贈するとしても、おふたりのお嬢様の遺留分はそれぞれ4分の1ずつで計2分の1になります。(右図2,ご参照ください。)
 仮に入籍され、配偶者となられた場合、全財産を妻に相続させるという遺言を書いたとすると、おふたりのお嬢様の遺留分はそれぞれ8分の1ずつで計4分の1となり、前段の場合にくらべ半分になります。(右図3、ご参照ください。)


 そのことをご理解頂き、まず入籍のための婚姻届けを地元の市役所に提出して頂きました。(因みに、婚姻届けは1年365日24時間、住所地の市区町村役場で受付てくれます。)
 

 それで晴れて法律上のご夫婦になって頂いた上で、公正証書遺言の作成へと手続きを進めました。遺言の内容は、一番の懸念事項である将来の奥様の安住の地である現在のご自宅を相続させるということ。
 

 さらに、お嬢様おふたりの遺留分を満たす内容にするべく(参照「遺留分限度を満たした遺言」)、「すべての財産の1/8に相当する額の現預金を、それぞれのお嬢様へ相続させる(それ以外の現預金は奥様へ相続させる)」と言った内容です。
 

 この内容を、公証人の先生にお伝えし、公正証書遺言を作成頂き、私と仲間の行政書士2名が立会証人となり(公正証書遺言作成時には2名の証人が必要です。)無事に完成となりました。
 

 現在も、ご主人も奥様も大変お元気で、「素晴らしい内容のアドバイスを頂いた、そのおかげで2人安心して暮らしている」と時々時候のご挨拶を頂いています。

 ついでながら、こちらの奥様は、将来夫亡き後、このご自宅を夫のおふたりのお嬢様へ遺す、との内容の遺言書を作成すると仰っています。