おふたり様の遺言1

はじめに

 お子様のいないご夫婦のみの、いわゆるおふたり様のご家庭の場合、ある一定の年齢になられたら、夫は妻に全財産を相続させるという内容の遺言書を準備されることをお勧めします。


 理由は、夫婦のみの法定相続の場合、夫の両親が既に他界されている時に、法定相続人が妻と夫の兄弟姉妹(兄弟姉妹のいずれかが既に他界されている場合、その子)が法定相続人となり、夫の財産の権利が配偶者だけでなく、その兄弟姉妹にも発生するという民法上の規定があるからです。


 そういったおふたりさまのご夫婦で、特にご自宅が持ち家で夫名義になっている場合、夫亡き後その持ち家の名義を妻に変更する場合、遺言書がないと遺産分割協議書に夫の兄弟姉妹の署名と捺印が必要となり、すなわち夫の持ち家の権利を妻に相続させるのに、兄弟姉妹の了承が必要となるからです。


 次のお話は、そういったおふたり様のご夫婦が、遺言作成されたことで奥様も、ご主人も大変ご安心され老後を気持ちよく過ごされている実例です。

概要

夫、妻のみのおふたりさまの親族関係

 このご夫妻は、70歳代後半でご結婚以来お子様がいらっしゃらない、いわゆるおふたりさまのご夫婦です。夫の方が妻より3歳程お若く、おふたりとも持病はおもちですが健康に過ごされています。


 財産は夫名義の都心のマンション1軒と預貯金はご夫婦ともお持ちです。このマンションは一度震災で倒壊して、財産としては失ってしまったものを、管理組合や施工業者とご夫婦が協力して再築された、ご夫婦にとってはとても大切な資産のひとつです。


 従ってご主人としては、自分に、もしものことがあった時の奥様のことを大変気にされていて、奥様もご自身が年上ということと、20数年前に癌切除の手術をされたこともあり、もし自分が先に逝ってしまった場合の夫のことを大変心配されていました。
親族関係は、夫は兄とその子が二人、妻は両親が既に他界されご兄弟もいないので親族は夫だけという状態でした。

ポイント


①おふたり様ご夫婦で、夫は妻の将来を、妻も夫の将来を心配されている
②財産は夫名義のマンションと預貯金
③夫の財産はすべて妻へ、妻の財産はすべて夫へ相続させたい

結果


 この場合、遺言書の作成がもっとも大事になります。内容としては夫はすべての財産を妻へ相続させるとし、妻は妻ですべての財産を夫へ相続させるという遺言を作成することが第一です。

公正証書遺言のサンプル(1ページ目)


 なぜなら、「遺留分限度を満たした遺言書」のページで書きました様に、遺留分について「夫は妻へ全財産を相続させる」と書けば、兄弟姉妹に遺留分の権利はないので、夫の兄から遺留分の権利を主張されることがありません。
 この遺言の内容が100%有効になり、夫婦二人で大変な思いで再建した夫名義のマンションも妻の名義に変更が可能になります。

 また、予備的遺言といって、もし万一妻が夫より先に亡くなった場合、妻に相続させようとした財産の貰い手を指定することができるのです。この場合、夫は、もし妻が自身より先に亡くなり、自身が後から亡くなった時にご自身の財産(マンションを含む)を甥にもらったもらうとした内容の遺言書を準備されました。


 さらに、奥様の遺言は、ご主人同様、すべての財産を夫へ相続させるとし、前出の予備的遺言を使い、夫が自分より先に亡くなった場合は、その財産を自身が生前にお世話になったある団体に遺贈するという内容の遺言書を作成されました。
 実はこの部分が非常に大切で、妻の予備的遺言を執行する時は、夫も既に亡くなっているわけで、この奥様は兄弟姉妹がいないので、まったくのおひとり様、いわゆる法定相続人不存在の被相続人になってしまうので、遺言がないと、せっかくの大切な財産が引き取り手がなく、いつか国庫に入ってしまうという事態になるところだったのです。


 こうして、ご夫婦おふたりで公証センターに出向いて頂き、夫婦それぞれが公正証書遺言書を作成されました。
 その後何度かお会いしていますが、これで(公正証書遺言書作成で)おふたりとも肩の荷が下りたようで、とても気持ちが楽になったと喜んで頂いています。