おふたり様の相続

背景

夫47歳で死亡、夫名義のマンションあり

 このご夫婦はお子様のいらっしゃらないご夫婦でした。夫が47歳の時に突然のがんの診断を受けて半年の余命宣告を受けられ、宣告通り半年で亡くなられました。
 夫の遺してくれた財産は、夫名義のマンションが主なものでした。マンションのローンも団体信用保険を使うことで完済でき借入金のないプラス財産となりました。妻はそのマンション名義をご自身の名義に変更する手続きをしようと思い、専門家に相談に行かれたところ、遺産分割協議書を作成し、そこに法定相続人の署名と実印での押印が必要であるとのことを知りました。
 この場合、お子様のいないご夫婦ですから、法定相続人が妻と亡夫の両親ということになります。
 そこで、妻は遺産分割協議書を作成し、夫の両親のもとに足を運ばれ、状況を説明し署名押印を求めたのですが、両親からの返答は「そのマンションにあなたが住み続けることは構わないが、血を分けた息子の財産をただで渡すわけにはいかない。従って遺産分割協議書への署名押印はできない」と言われ、妻としてはどうしてよいのかわからず途方に暮れてしまわれました。

遺産分割協議サンプル

ポイント

①子供のいないおふたりさまのご夫婦で、夫が47歳で死亡
②夫の相続財産はおふたりのお住まいであるマンション(夫名義)が主なもの
③相続人は妻と夫の両親
④遺産分割協議でマンションを妻名義へ変更することに夫の両親が拒否

対応

 義理の両親から遺産分割協議書への署名、押印を拒否され途方に暮れた妻は、仕方なく次の対応方法を考えるため、再度専門家へご相談に行かれました。そこで言われたことは、義理の両親の主張は決して間違っているわけではなく、法で認められた権利の主張であることで、きちんとした対応が必要であるということです。すなわち義理の両親にとっての相続分である1/3の権利を満足してもらうこと。具体的には相続財産であるマンションの評価額を査定してもらい、1/3相当額を現金で支払うことで遺産分割協議書に署名、押印をしてもらうという方法の提案でした。

 そこで妻としては何度か義理の両親のもとに通い、一方でマンションの査定をしてもらい、1/3に見合う現金を工面するということを実行し、それには1年以上の時間がかかったそうですが、何とか最終的に遺産分割協議が調い、ようやくこのマンションの名義を妻自身のものとすることができました。

 ただこの間の時間と労力、精神的な疲労、夫を僅か47歳という若さで亡くし辛い思いをしているときに、その辛さの上塗りをするような大変な思いをしたと述懐されていました。

 そして、この妻が仰ったことは、「なぜ夫に遺言を書いてもらわなかったのだろうか」ということです。このことは後から知ったことなのですが、もし仮に夫が「すべての財産を妻に相続させる」という遺言があれば、遺産分割協議書の作成の必要がなく、すなわち義理の両親の署名、押印が不要なわけです。ですから、遺留分の権利は両親にあるものの、手続としては、遺言があれば相続登記の名義変更ができたわけです。

 従って、このようなケースを含めおふたりさまのご夫婦は、もしもの時に備えて遺言書作成が必須と言えることがよくわかる事実となりました。